ひどく暑かった日の1988年
 まァ、厳密には昭和は64年まであるのですが、さすがに一週間のことなので、この際無視させてもらってね、実質的に昭和最後の年になった昭和63年、つまり1988年のことを書かせてもらおうと思いまして。
 
 某所で調査した結果、ま、ただ検索しただけなんですが、1988年8月の大阪の平均最高気温は32.4℃だったらしい。暑い暑いと言われた2018年の同じ大阪の平均最高気温が34.6℃なので、まあまあ暑かった年ってことになりますか。いや32℃でもたいがいクソ暑いんだけどさ。
 1988年と言えばちょうどアタシが20歳の時。ま、ハタチならね、クソ暑い時に出歩いても平気だったけど、さすがに30年以上経った今ではしんどくて敵わん。とにかく体力の消耗がハンパないもん。
 となると夏には出かけたくなくなる。なくなるけど所用の場合は行かなきゃしょうがない。残念ながら左うちわなご身分ではありませんから。
 
 もちろん電車の中は冷房が効いてるとはいえ駅まで、そして駅から目的地までは徒歩になるわけです。イメージとしては『A→A`→B`→B』みたいな感じ。
 あの炎天下の中を駅まで歩くのか、嫌だなぁ。ああ、多少もったいないし、時間も読めないけど、今日はクルマにすっかなぁ、なんて発想になりがちになる。
 たしかにクルマならほぼドアトゥードアで、冷房ガンガン状態で移動出来る。これなら『`』(←ダッシュ)を割愛して『A→B』になるもんね。
 アタシは果てしなく自堕落な人間だけど、実は歩くことは嫌いじゃないんです。それでも猛暑という強敵が目の前に現れたら、最強の防衛手段であるクルマを使わない手はない。つかその場合「歩くのが好き」なんてたわけたことを言ってる場合ではないっつーか。
 
 なんて長々どーでもいいことを書いてきましたが、アタシがクルマという素晴らしき文明の利器に目覚めたのが、今回の主題である1988年なんです。
 逆に言えば20歳になるまでのアタシはクルマには何の興味もなかったってことになるわけでして。
 あ、ちょっとだけ嘘を書きました。いやまったく興味がなかったのかというと、ほんのちょっと興味を持った時期もあった。
 だって世代的にね、1970年代後半に巻き起こった「スーパーカーブーム」の頃に小学生だったわけで、いわばピンズドってことになるんだから。
 ドハマりってほどじゃなかったけど、何かスーパーカーの撮影会みたいなのも行った記憶があるし、「対決!スーパーカークイズ」なんていう番組も毎週見てたから。今でも「♪ スゥパァカ~」なんて番組のテーマソングが口ずさめるくらいにはね。
 でもスーパーカーはスーパーカーであって<クルマ>ではないんですよ。わかります?
 
 そもそもの話ですが、アタシは乗り物に極端に弱くてね、要するにものすごく乗り物酔いをしやすい。電車でも「冬」「暖房ガンガン」「満員で座れない」の条件が満たされていたら確実に酔う。それも電車から降りて、涼しい場所に避難して、それでも軽く数分は微動だに出来ないレベルで。
 そんな人間だからクルマなんて本当に興味がなかった。酔いやすいし、1960年代狂だったアタシからすれば1980年代のクルマのデザインとか果てしなくダサく思えたし、興味を持つポイントがなかったんです。
 
 そんなアタシでしたが、大学に入ってガラッと変わることになります。
 アタシが大学に入ったのは1987年だけど、この年、正確にはこの年度になるのか、はほとんど学校に行っていない。大学にも行かず、友達と会うこともなく、バイトもせず、いったい何をやってたんだと聞かれると答えに詰まる。
 ま、ものすご~くかいつまんで、ざっくりと言えば「何もしてなかった」ってことになります。
 アタシは家でじっとしてるのが好きじゃないので、いわゆる引きこもりとは違うんですが、ひとり暮らしを始めたのをいいことに「テレビを見て、飯を食って、散歩して、オ○ニーして、寝るだけ」みたいな生活を約一年間続けていたのです。
 とにかくこの時期はゲームさえしていない。ファミコンも、高校時代に淫していたマイコンもひとり暮らしの部屋には持ってきてなかったから。
 何で持って来なかったんだろ。今考えても不明です。
 
 さすがにこれはマズい、と思い、新年度、つまり1988年の4月から本格的に大学に通うようになった。もっとも大学に行ってただけで、相変わらず授業にはほとんど出ませんでしたが。
 とにもかくにも大学へ行きたくなる理由付けのためにアタシは某サークルに入った。当然サークルにはクルマの免許を持ってる人がいるし、自分専用のクルマを持ってる先輩も結構いたんです。
 とか書くと、大学生の分際でマイカーとか贅沢な話だな、と思われるかもしれません。たしかにバブル期に入ったばかりで景気が良かったのはたしかだけど、それよりも立地の問題が大きかった。
 
 アタシが行ってた大学は大阪とは名ばかりの、かなり辺鄙な場所にありました。中心部から30分以上電車に乗って、そっからさらにバスなら10分以上、歩けば軽く1時間近くかかる。
 そんなところだとね、遊びに行くにもブーブー(クルマのことです念のため)がないとにっちもさっちもいかないのです。大学の周りとか本当に何にもなかったから。今は知らないけど。
 もちろんアタシも先輩のクルマに乗せてもらう機会が重なる。酔う、と敬遠して最初はあまり積極的に乗りたがらなかったのですが、それでも乗らないわけにはいかないし、実際乗ってみると、こりゃあ何と便利なものよ、と心惹かれるようになっていったのです。
 
 あれは夏の暑い日のことでした。
 どこに行く途中だったかは忘れたけど、何にしろ結構遠方まで遊びに行った時なのは間違いない。その日もアタシはふたつ上の、仲良くさせてもらってた先輩のクルマの助手席に座っていました。後部座席には、記憶が曖昧だけどアタシの同級生の女の子がいた気がする。
 先輩は爆風スランプのファンだった。いや本当にファンだったか、ファンだったとしてどれくらいの熱量があったのかは知らない。だけれどもその日、カーステレオから流れていたのが爆風スランプだったことはたしかです。
 
 どれくらい走っただろう。とにかく雲行きが怪しくなったっつーか、あきらかに道がわからなくなっていました。念押ししておくけど時代は1988年。まだナビなんて便利なものは存在しません。(←余計なツッコミ不要)
 夏の暑い日ってことは当然学校は夏休みです。だからその辺の心配はしなくていいんだけど、バイトがある者もいるし、さすがに帰りが夜中になるのはマズい。女性もいるしね。
 何となーく不穏当な空気が流れ出した。先輩は温厚な人柄なので当たり散らすとかではないんだけど、焦ってるのは手に取るようにわかる。
 日が暮れてきた。さっきまでの強い日差しが嘘のように太陽は西の空に沈みかけている。この<夕暮れ>というのも余計気持ちを不安にさせたっつーか。
 そして、その間も、エンドレスで爆風スランプが流れ続けている・・・、そんな情景を30年以上経った今でも信じられないくらい鮮明に憶えています。
 
 その時かかっていたのは爆風スランプの何というアルバムだったのか知らない。しかし便利な時代になったものでして、一曲だけはっきり憶えていたために、アルバムのタイトルもわかってしまった。
 アルバムタイトルは「JUNGLE」。何故わかったかというと、このアルバムに収録されているうちの「夕焼け物語」があまりにも強いインパクトがあったからです。
 
 ♪ クゥラス会の日ィがァ ちィかづいてくるゥ
   二ィ年ぶりィ君ィに 会ァえるかもしッれない~
 
 ま、これも後々わかったことだけど、「夕焼け物語」の舞台の季節は夏じゃない。現在進行形として春、思い出として語られているのは秋なので、本当は「夏のクソ暑いある日」の出来事のBGMにはそぐわないはずなんですよ。
 それでも、あの、何とも不安な、暮れていく街並みの情景と、気恥ずかしいまでに高らかに<青春>を謳い上げた「夕焼け物語」は奇妙なほどマッチしたっつーか。
 
 以降、アタシはまったく爆風スランプを能動的に聴いてこなかった。ま、yabuniramiJAPANなるものを読んでいただいている奇特な方なら、如何にもアタシが興味がなさそうなタイプの<音>だな、とわかってもらえると思うんだけど、この「ずっと聴いてなかった」ってのが思わぬ効力を発揮し始めたのです。
 近年になって、本当に久しぶりに、いや能動的となると人生で初めて爆風スランプを聴いてみたのですが、これが凄い。あ、もちろんやっぱサウンド的な興味はまったくないんだけど、とにかく記憶掘り起こし装置として優秀すぎるのです。
 
 爆風スランプを聴くと大学時代の光景を鮮明に思い出すことが出来る。とくに「夕焼け物語」を聴けば、先輩のクルマの助手席に乗って、どこかへ出かけて、道に迷った時の、あのクソ暑い日のことが甦る。
 こんなことを書くと変なのは承知ですが、今の今まで爆風スランプを能動的に聴かなくて本当に良かったと思った。能動的に聴いてないから他の記憶とゴッチャになってない。
 1988年の秋、アタシは免許を取り、この年の押し迫った頃にお下がりのクルマをもらった。だから1989年以降はこの先輩のクルマにはほとんど乗らなくなっていました。
 でもそのせいで、爆風スランプ=『1988年、先輩のクルマの中の光景』に限定された。つまり爆風スランプで思い出されるのはすべて1988年限定(正確には1988年4~11月)の出来事なんです。
 
 そう考えると爆風スランプってのは絶妙のチョイスだわ。アタシからすれば「積極的に聴こうとは思わないけど、聴いてて苦痛まではいかない」ってのがね。だからこそずっと聴いてなかったし、今も普通に聴けるんだから。
 ま、先輩もまさかそこまで計算してエンドレスで爆風スランプをかけていたわけじゃないはずだけどさ。
 
 
 (初稿 2015年8月15日更新「ひどく暑かった日の爆風スランプ」、2016年11月26日更新「リトラクタブル!」、2017年4月12~15日更新「孤独に花束を」、2018年1月13日更新「冬は暑い!」他・改稿 2019年3月25日)