アタシが生まれた頃の紅白歌合戦
 1969年12月、のちに国民的作品になる一本の漫画が小学館の学習誌で連載を開始しました。
 なんて書くと大仰だけど、もちろん藤子不二雄(当時はこの名義での発表だったんだからこれでいい)作「ドラえもん」です。

 初期の「ドラえもん」はあまり整合性が考慮されておらず、連載も全5誌での同時開始だったのですが、それぞれ別の物語が用意されています。つまり「ドラえもんとのび太の出会い」は全部で5種類あるっていう。
 てんとう虫コミックス1巻に収録されたのは「小学四年生」版ですが、それとは別に4つの始まり方があるわけで、しかしそれらは簡単に読むことは出来ませんでした。
 その後「藤子・F・不二雄大全集」に幻の初回もすべて収録されるに至るのですが、2000年代半ばまでは当時発刊された雑誌を古書店で購入するなり国会図書館で閲覧するなりしか読む方法がなかったんです。
 たしか1990年代の終わりだったと思うけど、アタシは幻の初回が収録された、1969年12月発行(1970年1月号)の「小学三年生」を古書店で購入しています。
 高いってほどでもなかったと思うけど(何しろ背表紙がない)、ま、よっぽど、読みたかったんだろうねぇ。

 しかしアタシが刮目したのは「ドラえもん」ではありませんでした。もちろん幻の初回も読んだけど、ああなるほど、と思っただけ。そんなもんだよね。
 とにかく「ドラえもん」を差し置いて滅多やたらに面白かったのが、巻頭で特集されていた紅白歌合戦の記事だったんです。
 1月号(12月の頭の発売だから校了は11月半ばくらい?)ってことで紅白の「予想」出場歌手の一口コメントが載っているんですが、これが面白いんですよ。
 あくまで「予想」なんで、本人に取材しているわけではない。今でいうならトリビア的な話を編集部でこさえた、こさえたっていったら創作みたいだけど、どっかから情報を集めて、あれこれ書いてあるっつー。
 ざっと紹介するなら

 赤組
 ・梓みちよ『ニックネームは「どびんのふた」だって』
 ・越路吹雪『100万人にひとりといういいのどだ』
 ・森山良子『フォークソングの女王。歌がうまい』
 ・由紀さおり『ル、ル、ルの夜明けのスキャットだ』

 白組
 ・アイ・ジョージ『スペイン人のバンドを作って大はりきり』
 ・美川憲一『おりめただしいマナーで有名』
 ・千昌夫『高校時代は応えん団のあばれんぼう』
 ・三波春夫『きれいな、いしょうで歌いまくる』
 ・フランク永井『しぶいのどをきかせるといっている』

 「いっている」というぐらいだから「いっている」んでしょうね。他の人はどうかわからないけど、少なくともフランク永井だけはガチってことですよね。
 あと「夜明けのスキャットだ」もある意味ガチか。つかもしコメント取りに行って、由紀さおりがいきなり「ル、ル、ルの夜明けのスキャットだ」と言い出したら確実に病院送りですよ。
 そういや、ま、さんまの話だから話半分なんだろうけど、さんまと大竹しのぶが付き合ってた頃、大竹しのぶが「実力派女優」という肩書きに憤慨してた、みたいなことを言っててね。
 本人的には「美人女優」と書いて欲しかったみたいだけど、どうも美人とは言い難い人にたいして「実力派女優」とか「実力派シンガー」なんて風潮は、たしかにあるもんね。(まァ大竹しのぶは別に美人女優でも問題ない範疇だと思うけど)
 それと同じニュアンスを森山良子のコメントに感じる。小学三年生向けだから(あとこの時代だから)「歌がうまい」だけど、これってつまり「実力派シンガー」ってことでしょうが。

 ま、それでもこの程度なら悪意までは感じないんだけど、ちょっとコワいのが

 ・佐良直美「ボーイッシュなスタイルがよくにあう」
 ・三田明「顔がきれいになったとひょうばん」

 対象読者が小学三年の雑誌で、こんなこと書いていいのか?つかこれ、あからさまに悪意込めてるだろ。
 まあ佐良直美はわざとじゃないだろうけどね。つか佐良直美が「そーゆー噂」(どーゆー噂かは各自検索してください。ちなみにご本人は完全否定されています)で徹底的にやられて半分芸能界引退まで追い込められたのはだいぶ後の話だけど、それでも、やっぱ、この頃からそーゆー噂があったのかねぇ。
 これは余談だけど、2010年に発売された、アタシも少々お手伝いした「植木等スーダラBOX」にね、当初佐良直美さん(ここからゲンキンに「さん」付け)が出演した番組も収録される予定だったんですよ。本人に連絡したらたいそう喜んでくれたそうなんだけど、まったく別の事情で佐良直美さん出演の番組はオミットされた。
 ま、アタシのせいでは一ミリもないけど、何だか申し訳なくてね。
 歌手としてだけではなく女優さんとしても良かったんだけどねぇ。「ありがとう」なんかでも主演の水前寺清子よりも佐良直美の方が良いもん。
 ま、今後もコラム期待しています!ってそれは佐良直美じゃねーって。

 何でしたっけ?あ、そうそう紅白でしたね。
 もうひとりの三田明のはなぁ。こっちはさすがに悪意ありまくりでしょうが。つか三田明と言えばもともと「キレイな顔立ち」で有名だったんだから、わざわざ「ひょうばん」もクソもないと思うんだけど。

 こんなのを読んでしまってね、ああもう、1969年の紅白見たいなァとずっと思ってたんだけど、なかなかビデオが手に入らなくてね。ツイてないのかアタシが録画環境を整えてから、めっきり昔の紅白の再放送をやらなくなったし。
 しかし偶然にもその前年の、つまり1968年の紅白のビデオを手に入れた。1968年っつーことはつまりアタシが生まれた年なわけでもありましてね。
 見てるとやっぱり思っちゃうんです。アイ・ジョージが出てくると、ああこの人、スペイン人のバンドを組んだのかぁとか、いやそれはいいんだけど、大はりきりだったんだなぁとかね。
 もちろん三田明が出てくると、この頃よりさらに顔がきれいになったのかとか。

 この年の紅白は完全にコント55号の紅白って感じで、他にも応援団としてクレージーキャッツやドリフターズもで出てきて応援コントをやるんだけど、55号が完全に食っちゃってる。すげぇなぁ55号。なんか若い頃の欽ちゃんって若い頃のさんまに似てるし。
 つか1968年と言えばクレージーキャッツの凋落が始まった年で、ゴールデンウィークに公開された「クレージーメキシコ大作戦」がコケて、前年まで「歌手」として出場していた紅白も落選して応援団に回ったと。
 とはいえコントの一景として「恋の季節」を歌ってるんだけどね。もちろん替え歌だけど。(「♪ こォいはァ ワタシィのォこォいは〜」が「♪ ゴォリラァ 世田谷のォゴォリラ〜」(←もちろんハナ肇を指す)になるのが可笑しい)

 アタシ的に一番良かったのは江利チエミのシーンでして。この年の紅白では「八木節」を歌ってんだけど、これがいいんですよ。
 しかも思ってたよりかわいいんです。途中で神田の藪そばらしきところから中継が入って、そこのユニホーム(?)を着て江利さんが出てくるんだけど、これが特にかわいい。あんまり見た目的な興味はなかったんですがねぇ。

 で、江利チエミといえば美空ひばりなんですが(そうか?)、怖かったねぇ美空ひばり。いやけして美空ひばりも嫌いじゃないですよ。特にジャズナンバーを歌ったのとか好きだし。
 でも怖いんです。大トリで出てくるんですが、まったく流れを無視したような登場のしかたで、しかもまったく大トリにふさわしくない歌(「熱祷(いのり)」)を歌うんです。小林信彦の「日本人は笑わない」の中に「お祝いの場でまったく場違いな歌を歌う」美空ひばりの姿が活写されているけど、もうまさにそれですよ。もうなんじゃこりゃとしかいいようがない。

 ま、それはともかく、この頃の紅白ってね、素直に面白いんです。
 そういや2017年12月に放送された「アナザーストーリーズ 運命の分岐点『紅白歌合戦 知られざる舞台裏』」でね、「昔の紅白は紅組と白組が本当に戦うかの如く殺気立っていた」みたいな話が出てたけど、そういう緊迫感はたしかに感じる。
 今は男性アーティストと女性アーティストが仲良くやりすぎで、まるで「合戦感」みたいなのがないし、それなら別に紅白に分ける必要もないんじゃないの?とすら思うもんね。

 あと、これも今の紅白にはまったくないことなんだけど、とにかくステージと客席との一体感がすごいんです。
 考えてみれば紅白だって客を入れて収録する、一種のライブなわけですよね。そうなると客も出演者の一部なんですよ。
 1968年の紅白を見てて痛切に思うのが、ああこの頃の観客って、本当にこの日を待ちわびて、そしてこの瞬間を本気で楽しんでいるんだろうなってのが手に取るようにわかることなんです。
 もう時代が違うからしょうがないのかもしれないけど、今の観客はもっと醒めてるもん。雲の上の大スターが誕生しづらいという事情もあるだろうけど、興味のあるアーティストには熱狂するけど、あとはどうでもいい、みたいな空気を出しすぎている。
 そうなると、どうしても会場が白々とした空気になりやすい。つまり観客自体をどうにかしないと、いくら民放ノリで頑張っても「面白い紅白」にはならないと思うんですよ。

 だからさ、もういっそ、開き直っちゃってね、観客全員サクラにしたらどうですかね。お前らギャラ払うんだから、本気の本気で番組を盛り上げろ、と。
 つか大物アーティストを招聘したりするより、そっちの方がよほど有効なカネの使い方のような。

 (初出 2004年6月15日更新「紅白(2005年に「『小学三年生』にみる1969年の紅白歌合戦」に改題)」、2004年6月18日更新「美空(2005年に「1968年の紅白歌合戦」に改題)」、2009年1月2日更新「やっぱり年の瀬は紅白」他・改稿 2018年7月9日)