笑うラジオデイズ
 アタシはとにかくモノグサな人間なので、学校の勉強とやらが大嫌いでした。
 とにかく生まれてこのかた、机に向かって勉学に励んだ記憶がまったくない。そりゃあ学校とか塾とかではそれなりにはやりましたが、間違っても自分の時間を潰してでも勉強しようなんてユメユメ思わなかったんですから。ホント、自分でも呆れ返ります。つか今も一緒だけど。

 たしか中学三年の頃だったと思いますが、クラスメイトの間で深夜ラジオが密かなブームになっていました。
 ま、たぶんですけど、彼らは深夜の時間まで起きて勉強してたんでしょうね。ああ、エライエライ。アタシなんか同じ起きてるにしても、部屋にテレビがあったのをいいことに深夜劇場とかそんなんを見てたから。さすがに映画を見ながら勉強は出来ない。ま、今となればそれも立派な教養になったと思うけどさ。
 それでも、それだけ話題になるってことは、その深夜ラジオとやらは相当面白いんじゃないかと気になってきたのはたしかで、アタシは勉強もしないクセに「ヤングタウン水曜日」をちょっとずつ聴き始めるに至ります。

 神戸生まれなんだからラジオといっても関西ローカルのものです。「ヤングタウン」は毎日放送制作で、水曜日のパーソナリティは<あのねのね>の原田伸郎。あのねのねと言えば小学生の頃にミニライブみたいなのを見に行ったことがあるし、馴染みっちゃ馴染みの人ではありました。
 正直原田伸郎のヤンタン(「ヤングタウン」の省略形)がどんなもんだったか、ほとんど記憶にない。微エロ要素があったのはたしかで、女性リスナーに電話して「パンツのゴムの弾く音、聞かせてくれるかなぁ〜」「ぱっち〜ん!」みたいなのは確実にあった。ま、あくまで微エロであって性的興奮を誘発するものではなかったのはたしかです。
 何より「面白かった」って記憶が残ってないのが問題で、つまりアタシはハマれなかったってことになりますか。

 深夜ラジオにハマれなかったアタシがラジオを聴くようになったのは大学生の頃です。
 といっても「深夜」ラジオではない。まだお天道様が高いうちにやってる、ま、午前中から夕方にかけてやってる番組にね、ハマったというよりドハマりしたんです。
 朝の5時からの「おはよう川村龍一です(「歌のない歌謡曲」含む)」から始まって(さすがに5時ちょっきりからは聴いてなかったけど)、「ありがとう浜村淳です」→「ごめんやす馬場章夫です」→「ホットのしゃべって当てまショー!」→「それゆけ!」→「すみからすみまで角淳一です」→「諸口あきらのイブニングレーダー」→「太田幸司のスポーツ・ナウ」まで隙がまったくない。しかもこの後は野球中継になるんだから、マジで朝から晩までラジオ漬けだったと言っていいと思います。

 そういや知り合いの女性が一時期「ありがとう浜村淳です」の、アシスタントという名の小間使いである<ありがとうギャルズ>(現在の<ありがとう娘。>)をやってたことがあってね。
 その子にね、「おはよう川村龍一です」のテレホンカードを貰ったんですよ。その子は「こんなもの、本当に欲しいんですか?」と怪訝な顔をしてたけど、アタシは小躍りするくらい嬉しかった。え?だって「おはよう川村龍一です」グッズですよ?んなもん欲しくないわけないじゃないですか。って誰が同意してくれるんだって話ですが。

 その子からは「ありがとう浜村淳です」の裏話もいろいろ聞いたけど、あれは本当に大変な番組でね。
 何しろ出勤が朝の4時半とかなんですよ。番組の放送開始が8時だからそんなもんかもしれないけど、もちろん電車なんか動いてない。だから図らずもタクシーで通勤するわけです。
 出勤したらまずは新聞のチェック。一般紙からスポーツ紙まで、あと当日発売された雑誌を含めて、隅々まで「使えそうなネタ」を、ありがとうギャルズ、スタッフ、そして浜村淳本人まで交えて総出で探していくっつー。
 んで良さそうなネタが見つかったら切り抜いてストックしていくのですが、そこから簡単な構成を作って、トークそのものは完全に浜村淳のアドリブだったそうです。
 しかしそれを毎日ってのはすごすぎるわ。あれは伝説的番組ですよ。というか今もやってるけど。

 ところが当時のアタシの友人曰く「これを聴き始めると「ありがとう」が物足りなくなってくる」とまで言わしめたのが「ごめんやす馬場章夫です」で、バンちゃんこと馬場章夫(ばんば ふみお、と読みます)が前日に様々な業種の企業に取材に行って、その内容をひたすら説明する。っつーか喋る。アシスタントの小山乃里子のチャチャにもめげず、とにかく喋りまくるだけなのですが、とにかくめったやたらに面白い。
 さらに「パン30斤もいらんわ!」というパペポでのツッコミでもお馴染みの「ホットのしゃべって当てまショー!」に繋がって、曜日でパーソナリティが変わる「それゆけ!」。個人的には上岡龍太郎が好きだったけど、一般的に「それゆけ!」と言えば板東英二の「おばあちゃんと話そう」のコーナーでしょう。

 ま、全部書いていったらキリがないのでこの辺にしておきますが、1990年代前半のアタシを彩ったのはテレビではなくラジオだったのは間違いない。
 アルバイトもこの頃はドライバーをメインで探していた。理由?決まってるじゃないですか。ドライバーなら仕事中にラジオが聴けるから。つまり仕事が仕事でなくなるっつーね。
 でも毎日放送、つまりMBSラジオ以外は聴かない。何かのはずみでABCラジオを聴いたら、もうぜんぜん聴いてらんない。はっきり言ってまるで面白くないんです。
 というか比較対象が悪すぎるわ。いや良すぎる、か。それくらいMBSラジオは朝から夕方まで充実してたから。

 しかしアタシのMBSラジオ漬けも終焉を迎えます。理由は簡単。MBSラジオの電波の届かない地域に引っ越したから。
 サンテレビ(の阪神戦中継)が見れなくなるのと並んでMBSラジオを聴けないことは極めて大きな意味のある、悲しいことだったんだけど、それらをかなぐり捨ててでも(って大仰だな)アタシは関東とやらに行ってみたかったのです。
 せっかく関東に来たのだから、こっちのラジオでも聴いてみるか、と思ったんだけど、うーん、どうもテイストが違いすぎて馴染めない。テレビはすぐに馴染めたんだけど、ラジオはどうもダメで。
 そんな時、驚愕するラジオ番組に出会った。本当に偶然。しかも実はこれ、アタシがMBSラジオにハマっていたことと大いに関係があるのです。

 ラジオってのは基本的に局ごとの独自編成なので、MBSラジオで流れる番組はほぼすべてMBSが制作したものです。
 しかしあくまで「ほぼ」であり、中には他局からネット受けした番組も、本当に少数ながら存在した。
 その中のひとつに、19時すぎから流れる番組があった。19時すぎからってのでもわかるように、あくまでプロ野球のオフシーズン限定です。
 それがね、番組まるごとではなく、おそらくワンコーナーだけネット受けしているんですよ。何か変でしょ?
 何しろ他の番組は関西色満載なのに、どう聴いても東京で制作されたとおぼしき、15分程度のこのコーナーは違和感バリバリだった。しかし何故にまたワンコーナーだけネット受けしてたのか、今もって理由は不明です。
 んで、アタシが関東に引っ越してからの話です。
 耳に飛び込んできたのは、あの、MBSでワンコーナーだけネット受けをしていた、あの番組だった。しかも、当たり前だけど、ワンコーナーではなくフルでやってる。
 それが「上柳昌彦の花の係長 ヨッ!お疲れさん」だったんです。

 とりあえず、何だか全貌が見えるような気がして、必死でその番組を聴いた。とにかく無我夢中で聴いた。
 ただ面白かったかどうかとか、まったく憶えていない。そもそも面白がろうという意思があったのかさえ定かではないし。当然パーソナリティだった上柳昌彦その人への感想もなければ、今現在もとくに思い入れはありません。(いつだったか忘れたけど、笑福亭鶴瓶が上柳昌彦を絶賛してるのを聞いたことがあるので、能力の高い人なのには違いないでしょうが)
 ただ異様に記憶しているっつーか、もうそれしか憶えてないんだけど、番組のジングルがね、スンゲェインパクトが強くて。

 ♪ うーえやなぎィ まーさひこのォ ン花の係長ォ〜(よ!お疲れさん)

 昔のコマソンぽいというか、まんがのうたっぽいというか、何なんだこれは、と。
 しかもジングルはこれだけではなく、といっても歌詞は全部番組タイトルのまんま(コーナー名が付加されている場合もあった)なんだけど、ブルース調のものだったり演歌調だったり、かなり種類があったのも驚きでね。
 一度気になったら、もう止まらない。どうしても、もう一度アレを聴きたい!
 二十一世紀の今は便利なものがあるわけで、そう、ミナまで言うな。某YouTubeです。(←某の意味ナシ)
 久しぶりに聴いてみた感想?あるわけないじゃないですか。ま、せいぜい「ああ、これこれ」と思ったくらいでね。

 ま、少なくとも面白いとは思えない以上、関東に越してからラジオを聴くことはほぼなくなった。聴くとしてもただFMを流しているだけ、みたいになっていきました。
 そんな中、本当に気まぐれでAMを聴いていて、死ぬほど笑ったことがあった。もちろん関東ローカルの番組です。
 とにかくタイトルもわからない。夕方にやってて、所ジョージがパーソナリティをつとめていたってことしか知らないし、その後も聴き続けることはなかった。つまりアタシが聴いたのは、その時一回こっきりです。
 何にそんなに笑ったのか、なのですが、どういう経緯かを書けば、ともかく大森うたえもんが自作のコミックソングを歌うコーナーがあったんですよ。何しろアタシはその回しか聴いてないんで、それが恒例のコーナーなのかどうかもわからないんだけど、その時はうたえもんが「ソバ屋の出前」を題材にした歌を歌ったんです。

 ソバ屋の歌そのものは、贔屓目で「ふつう」って感じだったんだけど、その後の所ジョージのコメントがメチャクチャ面白かった。とにかくホメるんだけど、なんだかよくわかならいヘンなホメ方でね。もうなんでそんなに笑ったのか、どんなおかしいことをいったのか忘れたけど、とにかくアタシはクルマの運転をするのが大変なぐらい笑ったんです。
 しかし面白さの理由は憶えている。「これ、所ジョージは大森うたえもんの歌をあんまり面白いと思ってないだろ」ってのが伝わってきたからなんです。
 本心では面白がってないのに、無理矢理ホメる。番組として盛り上げるためでも、大森うたえもんを持ち上げたいわけでもなく、面白くなくてもホメたいからホメる。この姿勢ですよ。つまりパーソナリティである以上、徹底的に自分本位に徹する。これがラジオの醍醐味なんです。

 ラジオってもんはパーソナリティ本位になってないと面白くないんです。聴いてくださる皆様方に面白がってもらおう、なんてやってる番組は軒並みつまらない。考えてみれば浜村淳も馬場章夫も角淳一も聴き手のことなんか二の次で、自分の喋りたいことだけを喋っている。だから面白い。
 それは、本当はテレビも一緒だと思うんだけどね。ま、話が逸れるんでこれで終わりますが。


 (初出 2005年1月8日更新「所ジョージのこと」・2017年12月21日更新「唄はなつかし・上柳昌彦の花の係長 ヨッ!お疲れさん」・2018年4月27日更新「yabuniramiJAPANレジューム・麗しきMBSラジオの世界」他・改稿 2018年7月30日)